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Radio Program

25th June 2024

Realities and Prospects of Local Development

片山善博元総務相に聞く
「東京圏高齢化危機回避戦略」に始まった、地方創生の実態と展望

Special Guest:KATAYAMA YOSHIHIRO

スペシャルゲスト:片山 善博さま / 大正大学 地域構想研究所所長、特任教授


ー スペシャルゲストは、大正大学教授であり、大正大学地域構想研究所所長でもある片山善博先生です。片山先生、どうぞよろしくお願いいたします。早速ですが、「消滅可能性都市」当初の狙い外れた、という毎日新聞の記事を拝見しました。

10年前に日本創生会議という、今回の人口戦略会議に似た組織が市町村別の人口分析レポートを出しました。当時、「消滅可能性都市」として日本の市町村の半分以上がいずれ消滅すると伝えられました。この情報は市町村にとって脅しとも受け取れる衝撃的なものでした。その後、安倍政権の地方創生が始まりましたが、日本創生会議の翌年に「東京圏高齢化危機回避戦略」という別のレポートが出されました。これには、団塊世代が後期高齢者になることで医療や介護が逼迫し、新たな施設を作る土地も人材も足りないと警告されていました。これを回避するためには、元気なうちに地方に移住してもらおうという内容でした。東京圏から見ると合理的ですが、地方から見ると非常に虫のいい話です。働ける間は東京で働いてもらい、高齢者になったら地方に移住してもらうという考えですから。

いずれにしても、第一弾の「消滅可能性都市」レポートの衝撃が大きく、市町村が狼狽し浮き足立ちました。当時の安倍政権がこれを見て、地方対策を講じることで政権の支持率が上がると考えた可能性もあります。こうして地方創生が国の内政の最重要課題の一つに仕立てられました。

しかし、地方創生は人口問題をどう解決するかという点で中途半端です。市町村にできることは移住促進くらいしかなく、人口の奪い合い競争が始まりました。これは日本の総人口が減っている中で不毛な競争です。本来なら、10年前から奪い合いを助長するのではなく、少子化対策や移民問題を冷静に議論し、国論を統一するような作業を進めるべきだったと思います。

ー 東京都知事選、いよいよ始まります。

まず、東京都は、他の県とは異なり、非常に多くの業務を首都として抱えています。通常の県であれば、例えば神奈川県には横浜市や県庁がありますが、東京都には東京市が存在せず、そのために全ての業務が都の管轄になっています。これは第二次世界大戦中に戦時体制として、東京市と東京府が合併して東京都が誕生したことが背景にあります。このため、東京都は通常の市が行う業務(消防、浄水道、下水道、都市交通など)も全て担当しており、非常に大変な状況です。例えば、横浜市が行っている大きな仕事を神奈川県庁が一緒に行っているようなもので、どの知事が担当しても巨大な自治体の運営は非常に難しいです。

そこで、提案されるのが「東京市」の復活です。東京市を再設置し、東京都と役割分担をすることで、大都市地域としての経営がより効率的になるのではないかという考えです。これによって、東京都はより効果的に運営できるようになるでしょう。

ー 前安芸高田市の市長を務めた石丸伸二氏が注目を集めています。

東京都知事選挙に出る際に掲げる基本的なスローガンは、「東京都の行政構造を是正する」というものです。しかし、地方自治体の長としての経験から見ると、前市長にはいくつかの問題があると感じました。市民の代表としての議員を尊重し、議会が最終的に決定することを理解する必要があります。議員をバカにしたり侮辱したりすることは避け、対話を通じて納得を得る姿勢が重要です。

地方創生に関しては、日本の総人口が減少している中で、地方自治体同士の人口の奪い合いは不毛です。移住促進ではなく、少子化対策や移民問題を冷静に議論し、国論を統一する作業が重要です。

ー 地域創生について、改めて先生のお考えをお聞かせください。

地域の問題解決には、まず足元を見つめ、自分たちの地域問題を具体的に捉えることが重要です。抽象的なアイデアや一般論だけではなく、地域固有の課題を理解し、それに対する現実的な解決策を見出すことが必要です。例えば、私の故郷である岡山県の真庭市では、地域資源を活用した成功例があります。真庭市は木材の町で、林業が盛んです。しかし、林業の副産物として木の切りくずや廃棄物が大量に出ることが長年の課題でした。これらの廃棄物は産業廃棄物としてコストをかけて処分する必要がありました。

しかし現在、真庭市ではこれらの廃棄物を使って地域電力を作り、発電事業を成功させています。地域の皆さんがこの問題を真剣に考え、解決策を見出しました。木の切りくずや林業廃棄物を燃料にして発電する方法です。発電量は真庭市の家庭の消費電力を賄えるほどで、地域経済に大きく貢献しています。この取り組みの結果、電力会社に支払う電気代が減り、地域内での経済循環が生まれました。また、発電事業によって新たな雇用が生まれ、若い技術者や営業職などが地域に定着しています。これにより、地域経済が活性化し、所得も増加しました。

真庭市の事例は、地域の課題を真剣に考え、地域資源を活用して解決策を見出すことで成功を収めた一例です。このように、地域のことを真剣に考え、具体的な解決策を見つけることが、地方創生の鍵となります。他の地域でも同様の取り組みが可能であり、地域ごとの資源や課題に合わせた解決策を模索することが重要です。

ー 大正大学での先生のお取り組みについて、最後にメッセージをお願いします。

大正大学地域構想研究所は、仏教系の大学である大正大学に設置された組織で、地域との深い関係を持ち、地域課題の解決に向けて活動しています。大正大学は各地のお寺や宗派との関係が深く、地域とのつながりを大切にしています。このため、地域構想研究所も各地域が抱える課題に対してサポートを提供することを目的としています。地域構想研究所の主な役割は、各地域が抱える課題の解決に対してアカデミズムの知見を活用することです。日本の自治体は通常、国からの支援や情報に頼ることが多いですが、地域構想研究所では大学の研究者や教員の専門知識を地域課題の解決に役立てることを目指しています。

研究所のメンバーは、大正大学のさまざまな専門領域を持つ教員や研究者で構成されています。彼らの知見を地域課題の解決に役立てるために、地域の実情を把握し、適切な研究者や専門家をマッチングする役割を担っています。地域構想研究所は、地域と大学の研究者が協力し合い、地域課題の解決に向けて具体的な取り組みを進めることで、地域の発展と研究者の成長を同時に実現することを目指しています。

ー 今日は貴重なお話をありがとうございました!