Special Guest:TOMOHIRO KEIJI
スペシャルゲスト:友廣 啓爾さま / 富士通株式会社 Demand Generation Division
富士通は本当に実践を重んじるという姿勢なのか、僕が出したことに対して皆さん無関心なようでして。誰にも咎められることもなく自由にやらせていただきました。きっと僕の知らないところで批判はあったと思うんですけど、自由にやらせていただいてます。
「DX」という言葉は、最近ではバズワードのように使われていますが、実際にどうやって実現するのか分からず、足踏みしている方が多いように感じます。本書では、DXの課題や問題を定義するだけでなく、具体的な解決策を提示したいという思いで執筆しました。
特に、大企業を変えるのは非常に難しいことです。課題を感じながらも、なかなか行動に移せず、もどかしい思いを抱えている方も多いのではないでしょうか。そのような方々に、勇気を持って改革を進める第一歩を踏み出してもらえるようなきっかけになればという願いを込めて発行しました。
富士通は大企業であり、毎年多くの新卒社員を採用できるため、人的リソースに困ることは少ないかもしれません。しかし、日本全体を見渡すと、課題解決を「人に依存する」労働集約型のやり方が主流であることが、大きな問題だと感じています。人を投入して課題を解決する方法では、生産性が低下し、利益率も下がります。
中堅・中小企業ではさらに深刻で、そもそも人材の確保が難しくなっています。労働人口の減少や非正規雇用、海外人材への依存が増え、これまでの方法では解決できない状況です。このままでは「日本沈没」に繋がるのではという危機感を抱いています。
そこで私たちが取り組んだのは、「インサイドセールス」を鍵とした仕組みの見直しです。特に営業は従来の慣例が強く、テクノロジーやセールステックの導入も遅れている分野でした。多くの企業では「自分たちのやり方がある」と新しい仕組みに抵抗する声も少なくありません。しかし、労働集約型から「仕組みで解決する型」へと転換しなければ、どの規模の企業でも今後は生き残れません。
私たちが実施した取り組みが、大企業・中小企業問わず、組織作りや営業改革の参考になればと思っています。日本の企業が仕組みで課題を解決し、持続的に成長していける未来を目指しています。
外資系企業では、売上(トップライン)だけでなく利益(ボトムライン)が重視され、特に株主への説明責任が厳しく求められます。そのため、利益の変動が株価に直接影響することもよくあります。特にSaaS企業の場合、赤字でも時価総額を含めた企業価値が評価されるケースが多いのですが、私が勤務していたSAPやマイクロソフトでは、オンプレミス型(自社設置型)の製品からSaaS型(オンライン型)製品への移行が進んでいました。
この転換期では利益率が大きく変わります。実は、オンプレミス型の方が利益率が高い場合が多いのですが、SaaS型への移行では、売上を維持しながら利益も増やす方法を見つけることが求められました。そのため、知恵を絞り、組織をどのようにリストラクチャリングし、仕組みで解決するかを真剣に考えなければなりませんでした。
これには本社だけでなく、各リージョンや国ごとのローカルチームも知恵を絞る必要がありました。また、ローカルで成功した取り組みを本社に逆提案し、それが認められることもありました。こうした仕組みが企業全体をスムーズに動かし、結果的に利益率向上につながったと感じています。
このような経験をもとに、富士通や日本企業でも同様のことができるのではないかと考え、取り組んでいる次第です。
対人のコミュニケーションではAIではなく人間でなければならない部分が明確にあると感じています。AIが説明するだけなら十分な場面もありますが、人を説得し納得させるには、それ以上の力が必要です。
私が外資系企業で学んだのは「バイン(説得力)」を磨く重要性です。バインとは、上層部や意思決定者に対して、自分の意見や計画を納得させる力のことです。この能力は、社会人として初期の頃に身につけたものであり、外資系で働く中で自然と鍛えられました。
一方で、日本企業、特に富士通では、トップダウンの指示が効きにくく、多層的な組織での説得が必要です。そこで私たちは、プロジェクトを進めるために、あらゆる層の人々に対して丁寧に説明し、利益を明確に伝えました。たとえば、最初の2か月で約300回の説明を行い、1年で1000回以上説明することもありました。
多くの組織では、新しいシステムやプログラムを「導入しました。あとは使うだけです」と説明するだけで終わりがちです。しかし、これでは利用者がその価値を理解しきれず、定着しません。私たちは利用者の「喉元まで」準備を進め、判断しやすい形で提供することを心がけました。
CRM(顧客関係管理)の例では、日本での定着率は20~30%と言われています。その理由の一つは、単に「導入して、後は使ってください」というやり方にあると思います。成功させるためには、利用者が活用しやすい環境を整え、価値を伝える努力を惜しまないことが重要です。私たちもその手間を省かず、丁寧に説明と説得を重ねました。
結果がどうであれ、こうした努力が成功の一因になったのではないかと思っています。
このプロジェクトは、実は僕自身の興味本位から始めた「野良プロジェクト」でした。最初は誰からも承認を得ていない状態で始まりましたが、少しずつ営業や製品部門の役員たちに説明し、理解を得ながら進めてきました。
日本企業特有の課題として、年に一度の大規模な人事異動や組織改変があります。そのたびに新しい人たちにゼロから説明し直す必要がありました。これが本当に大変で、説明の回数が1000回以上にも及ぶ結果になったんです。
ただ、それでもボトムアップで進めたことには大きな価値があったと思っています。もしトップダウンで「これをやれ」と任命されていたら、プロジェクトに対する愛情や情熱が生まれなかったでしょう。特にインサイドセールスのような専門性が高くユニークな領域では、知識や経験のない人が任命されても成果は出せなかったかもしれません。
だからこそ、一人の熱意やアイディアがどれだけ重要かを実感しています。このプロジェクトをどう広げるかを考え、説得を繰り返してきた結果、最終的には2年後に社長の「やろう」という言葉を得ることができました。それまでは社長自身もこのプロジェクトの存在を知らなかったと思います。
少し話がそれるかもしれませんが、私たちは現在、日本での約4年間の活動を型化し、それを北米で展開する「逆輸入」の取り組みを進めています。言語や文化が違っても、プロジェクト成功の鍵は「密なコミュニケーション」にあると実感しています。これは日本でも海外でも変わりません。
北米での展開を始めて約1年ですが、最初は営業現場から拒否されたり、アメリカのトップから厳しい言葉を受けたりもしました。しかし、出張を重ね、直接膝を突き合わせて話し合う中で、「実は認めていた」「別の部分に不満があった」といった相手の本音が分かる場面も増えました。
結局、国籍や言語が違っても、説得には「熱量」と「頻度」が欠かせません。それが最終的な成果に大きな影響を与えることを、今まさに感じています。
私たちの活動は、まだ全ての営業部門や地域に浸透しているわけではありません。また、富士通全体のお客様に完全にサービスを提供できているわけでもありません。現在、自己資本総額6兆円という富士通の規模を10兆円に引き上げるためには、さらなるカバレッジの拡大が必要だと感じています。
富士通には4~5つの主要な地域拠点がありますが、現在対応しているのは北米のみです。アジアやヨーロッパで同様の活動を展開するには、新たなチャレンジが必要です。ただし、これまでの活動で得た新規営業のノウハウや知識が蓄積されつつあり、私たちの部門ではそれを因数分解し、教育メニューとして整備し始めています。これらのノウハウを、今後はフィールドセールスを含む営業全体に共有し、展開していきたいと考えています。
CRM活用の面でも私たちは成果を上げています。富士通全体で13万人がいる中で、私たちの小さな組織(約120人)がCRMのログイン率や使用時間で最も高いのです。私たちはCRMを業務の中心に据え、業務の「語り場」として活用しているためです。このノウハウを全社に広げることで、富士通全体のデジタル化やデータドリブン化を推進し、真のDX実現に繋げたいと願っています。
私たちはまだ小さな組織であり、吹けば飛ぶような存在かもしれません。しかし、この部署を富士通の中で持続可能な形で活かし続けることが私たちの目標です。得たノウハウを共有し、富士通全体の成長に貢献する「キーファクター」になれるよう、日々努力を重ねています。