Dot Pattern

Radio Program

17th December 2024

A Bridge Between Healthcare and Welfare.

医療と福祉の架け橋
地域医療の未来を紡ぐ、地域連携室の役割と挑戦

Special Guest:KOBAYASHI MASAKAZU

スペシャルゲスト:小林 正和さま / 株式会社連携創造研究所 代表取締役


ー 本日お話を伺いますのは、株式会社連携創造研究所 代表取締役社長、小林 正和さんです。このたび、素晴らしいご著書を拝読させていただきました。小林さんのご著書『選ばれる病院になるための地域連携室運営の教科書』です。昨今、病院経営が非常に厳しい状況にあり、「安心が守られるのか」と不安を抱える方々も少なくありません。病院経営において、地域連携室はまさに鍵を握る存在です。福祉法人を経営されるお立場からご覧になって、この「病院における地域連携室」という役割について、その重要性は共通しているのではないでしょうか。

地域連携室は、医療と福祉を結ぶ重要なポジションを担っています。病院によって名称は様々で、「医療連携室」や「地域連携室」といった呼び方がありますが、いずれも福祉法人とのパイプをつなぐ最も近い部署と言えるでしょう。

ー 本書を拝読し、地域連携室の重要性がまだ十分に理解されていない事例が全国に多く存在しているのではないかと感じました。そこで改めて、先生からご覧になった地域連携室の役割やその重要性について教えていただけますでしょうか。

地域連携室は、患者さんにとって聞きなじみのない部署かもしれませんが、病院における非常に重要な役割を担っています。一般的には「患者相談センター」や「患者支援センター」の一部として機能しており、診療科の医師や看護師でも業務内容を十分に理解していないことが少なくありません。

地域連携室は、一般企業で例えると「営業部門」「広報部門」「お客様対応部門」を兼ね備えた部署に相当します。病院にとって顧客戦略の最前線に位置し、経営の鍵を握る存在です。

特に200床以上の病院では、地域のクリニックなどから紹介された患者を受け入れることが経営的なメリットを生みます。診療報酬の仕組みにより、自院の外来患者よりも紹介患者を入院させたほうが収益が上がる構造になっているからです。

この仕組みは厚生労働省が推奨する「役割分担・機能分化」に基づいており、地域の医師が患者を診察し、必要に応じて病院へ紹介する体制を整えることで、病院は安定した収益を確保することができます。

ー 小林さんは薬学部を卒業され、薬剤師資格をお持ちで、MRなどとしてご活躍の後、2019年に地域連携をテーマとする連携創造研究所を設立されたと伺っています。現在、患者さんが来てくれる病院とそうでない病院が明確に分かれてきています。地域特性も影響しますが、地域から選ばれる病院になるためには、地域連携室の役割が非常に重要であり、病院側がその重要性をしっかり認識する必要があるということですね。

病院経営において、院長や経営幹部の先生方は口を揃えて「地域連携が非常に重要だ」とおっしゃいます。しかし、その重要性を認識しつつも、「具体的にどう進めるのか」を職員全体に浸透させる取り組みが十分でない病院も多いのが現状です。

地域連携室が本格的に立ち上がったのは2000年の介護保険制度化以降で、まだ20年余りの歴史しかありません。それ以前は、自院での診療と治療が中心で、退院後の患者さんの在宅復帰やかかりつけ医への引き継ぎといった視点が重視されていませんでした。

最近では、こうした取り組みの重要性が認識され、地域連携室も活発に活動していますが、多忙な業務の中で、その活動内容や貢献度を院内で十分にアピールしきれていないことが課題として残っています。

ー 地域連携室を運営するにあたって、どのような取り組みから始めるべきか、また、どのような事例が成功しているのか、ご著書から具体的な事例を交えてご紹介いただけますでしょうか。

地域連携室の運営について、まず重要なのは、地域にどれだけの医療・福祉・介護の資源、さらには社会資源があるかをしっかり理解することです。連携室のスタッフは「つなぎ人」として、人や施設を結び、退院後に患者さんが適切な場所に移行できるよう支援する役割を担っています。この点で、地域包括ケアシステムにおけるコーディネーターとしての役割が求められています。

また、地域包括ケアシステムでは、民間企業など多様な主体の協力も必要とされています。その一例が「シニアライフ相談サロン メープル」です。このサロンは、医療と介護だけでは解決できない問題に対応し、シニアの困りごとをワンストップで解決する仕組みを提供しています。現在、全国で95店舗を展開しており、最終的には47都道府県すべてに1店舗を目標としています。これにより地方に住む高齢者やその家族の支援体制を強化することを目指しています。

ー 先ほど「つなぎ人」や「コーディネーター」というキーワードが出ましたが、本書を通じて、医療福祉連携士という資格があることも学びました。この医療福祉連携士というお仕事について、その具体的な役割や重要性について、改めて教えていただけますでしょうか。

医療福祉連携士は、日本医療マネジメント学会が2011年に認定を開始した学会認定資格です。東日本大震災を契機に設けられ、現在では全国で600~700人ほどの医療福祉連携士が活躍しているとされています。この資格は、医療と介護福祉をつなぐスペシャリストを養成するために設立されました。

医療福祉連携士は、座学に加えて、現場での実習が重視されています。例えば、ケアマネジャーや地域包括支援センターでの業務体験を通じ、医療や介護、福祉の現場を具体的に理解します。このような実習を通じて、医療の専門家が介護福祉を、介護福祉の専門家が医療を理解するきっかけとなり、多職種連携が実現されます。

私自身、2011年の第1期生として資格を取得し、多職種のコーディネート力を活かしながら、連携室における実務を支え、医療と介護福祉を結ぶ活動に取り組んできました。

ー 本書では、医療福祉連携士が他院との連携を通じて地域医療を強化した具体例が紹介されています。病院同士を競合ではなく社会資源として捉え、人員や専門性を補完し合うことで、地域全体の安心・安全に貢献した事例には大変驚かされました。他にも、地域連携室や医療福祉連携士の活動で特筆すべき成果があれば、ぜひ教えてください。

今お話にありましたように、各病院との連携は非常に重要なテーマです。確かに病院同士はライバル関係にありますが、患者さんの立場から見ると、それぞれ得意分野を持つ病院が存在します。そのため、診療内容に応じて最適な病院を適切に選ぶ必要が出てきます。

これは自院内だけの話ではなく、他の病院やクリニック(会員)のことをよく理解しておくことが大切です。そうすることで、自院では対応できない患者さんが紹介されてくるケースもあります。例えば、救急搬送された患者さんが、自院で対応するには難しい場合、連携室がコミュニケーションを取れていれば、他の病院にスムーズに患者さんを紹介できます。

ですので、たとえライバル関係であっても、地域全体の医療資源として、全体を俯瞰する視点を持つことが非常に重要です。お互いの強みを活かし、弱みを補い合う形で連携を進めることが、地域医療をより良くするための必須条件であると考えています。

ー 医療福祉連携士は、福祉と医療をつなぐ重要な役割を担っており、地域包括ケアシステムにおいても欠かせない存在です。本書で紹介されている「選ばれる病院」の事例では、広報を通じて地域に眠る社会資源を掘り起こす取り組みが、病院と地域の連携を強化する上で非常に有益であることが示されています。また、医療と福祉の距離感を縮めるためには、両者が積極的に情報を発信し、内在する価値を共有することが重要であると感じました。

連携して作成している広報誌は、かかりつけ医の先生方に病院の人員状況や取り組みを知っていただくための重要なツールです。地域包括ケアシステムにおいて、医療のキーパーソンはかかりつけ医の先生方です。その先生方が患者さんに適切な病院を紹介するための情報として、広報誌がしっかり活用されています。

また、連携室のスタッフの視点では、会議や訪問の際にどのような情報を伝えるべきかが大切です。口頭で伝えるだけでなく、広報誌のようなツールを活用することで、伝達効果が大きく変わります。特に忙しい場合、ツールを配布するだけでも情報が伝わりやすくなり、結果として患者さんが適切な病院に紹介されるケースが増えるのです。

さらに、このようなツールは単なる宣伝ではなく、病院で対応可能な診療内容や受け入れが難しい分野について事前に周知する役割も果たします。適切な情報を共有することで、紹介時の混乱を防ぎ、患者さんにとってより良い医療体制を整えることができるのです。

ー 地域連携室の存在が、私たちの豊かな生活を支える上で非常に重要であると改めて感じました。本日は、医療と福祉の連携について、まだ課題が残る点やその解決策、具体的な事例についてお話を伺うことができました。貴重なお時間をいただき、ありがとうございました!