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Radio Program

31th December 2024

The Future and Challenges of Family Business.

ファミリービジネスの未来と挑戦
柔軟な発想で切り拓く事業承継

Special Guest:YANAGAWA NORIYUKI

スペシャルゲスト:柳川 範之さま / 東京大学大学院経済学研究科・経済学部 教授


ー 本日は事業をどのように継承していくのか、承継していくのかについてお話を伺います。スペシャルゲストに東京大学大学院経済学研究科・経済学部 教授の柳川範之さまをお迎えしています。柳川さんよろしくお願いします!今回、柳川先生とご縁をいただけたのは、星野リゾート代表である星野佳路さんから、「事業の継承や株式、そしてファミリービジネスについて学ぶなら、柳川先生を置いて他にいない」と伺い、ご紹介いただきました。

先生は、ファミリービジネスの継承をはじめ、多岐にわたる活動や情報発信を行っていらっしゃいます。ご著書も数多く手がけられており、特に最近では「アンラーニング」や「リスキリング」、「独学」など、社会に出てからの学び方に焦点を当てたテーマを扱われています。この事業の継承やファミリービジネスに関して、幅広く研究をされているとお伺いしています。改めて、柳川先生の研究内容について、まずはお聞かせいただけますでしょうか。

一つ言えるのは、日本経済の中でファミリービジネスが非常に重要な役割を果たしてきたということです。このようなファミリービジネスが、これからも継続し、さらに発展していくことは、地域経済やその企業自身にとってとても重要だと考えています。

ただ、その継続や発展をどううまく実現するかは非常に難しい課題です。そのため、アカデミックな視点を取り入れ、システマティックに事業をつなぎ、発展させる仕組みを考える必要があると思っています。その中で、コーポレートガバナンスや経済学の枠組み、計画的なアプローチを活用しながら、こうしたテーマについて幅広く研究を進めてきた、というのが私のスタンスです。

ー 確かに日本では「ファミリービジネス」という言葉に比べて、「同族企業」という言葉が使われることが多いですよね。ただし、「同族企業」というと、どうしても私利私欲や内輪での運営といった、少しネガティブな印象を伴うことがあるように思います。これに対して、世界の研究では、ファミリービジネスをより広い視点で捉えており、ポジティブな側面や長期的視野に基づいた経営の強みなども重視されていますが、この点について先生はどのようにお考えでしょうか?

そうですね。確かに、ファミリービジネスや同族企業の中には問題を起こしているケースもあれば、非常にうまく運営されているケースもあります。ですので、一律に「ファミリービジネスは良い」や「同族経営はダメ」といった括りで判断するのではなく、良い点を伸ばし、課題となる部分をどう改善していくかを考えることが重要だと思います。

また、世界的に見ても、ファミリービジネスとして成功を収め、大きな尊敬を集めている企業が数多く存在します。そうした成功の秘訣や強みを研究し、それをどのように伸ばしていくかという視点が重要です。日本にも独自の強みを持つファミリービジネスがたくさんあると思いますので、その良さをしっかり見つけ出して活かしていくことが大切です。

こうした取り組みは、学問的にも、現実的な経営面でも、さらには経済政策の観点からも非常に重要な課題だと考えています。

ー 先生がこれまで研究を進めてこられた中で、特に「この観点で事業継承がうまくいっている」「ファミリービジネスとして成功している」と感じられる事例があれば、ぜひ教えていただきたいです。

先ほどお話に出た星野さんのケースは、ある意味で非常にハードランディングな状況を乗り越えながら、大きく発展してきた事例として挙げられます。また、最近ではジャパネットさんも非常に注目すべき事例だと思います。若い経営者が積極的に新しい挑戦をされ、活躍されているのが印象的で、非常にうまくいっているケースの一つではないでしょうか。

ただ、事業継承がうまくいくかどうかを考える際に、単純に業績が落ち込まないことが「成功」の指標になるわけではないと思います。特に次世代が経営を引き継ぐ際には、新しい挑戦をする中で失敗があったり、一時的に業績が下がることもあるかもしれません。それが必ずしも「うまくいかなかった」とは言えず、むしろチャレンジをする姿勢自体が重要な場合もあると思います。

ですから、事業継承の成功を判断する際には、表面的な業績の変化だけではなく、取り組んでいる内容や企業の内側で起きていることをしっかり見ていくことが大切だと考えています。

ー 先生のご経歴を拝見すると、ブラジルへの渡航や慶應義塾大学の通信課程を経て、現在東京大学の教授という、非常にユニークな道を歩まれてきたことが分かります。先生が歩まれた道自体が、学び続けることの重要性を象徴していると感じます。この「学び」というテーマについて、ファミリービジネスと絡めても、または少し離れた視点でも構いませんので、先生のお考えをお聞かせいただければ幸いです。

多くの人が学生時代にはさまざまなことを学びますが、社会人になってから、特に年齢を重ねてから学ぶことについては、どうしても「教養講座」のようなイメージが強かったのではないでしょうか。しかし、実際には、多くの企業経営者の方々や専門職の方々が、時代の変化に合わせて常に学び続け、それをビジネスに活かしてきたのだと思います。

たとえば、エンジニアの方々も技術革新に合わせて新しい知識やスキルを身につけていますよね。その意味で、社会人の学びというのは昔から重要なものでしたが、特に今のような時代の変革期においては、自分のスキルを見直し、それをアップデートしていくことがより重要になっています。最近よく使われる「リスキリング」という言葉も、その文脈で注目されていますね。

ただし、全く異なる分野のスキルに切り替えるのではなく、現在持っているスキルをさらにバージョンアップさせるためのリスキリングが特に大切だと思います。これはファミリービジネスにも当てはまります。経営者の方々が新しい環境や課題の中で、自分たちのビジネスをどう発展させるかを考える上で、現在の時代環境や自社の強みを経営学、経済学、法学といった学問を通じて整理することは、大いに役立つはずです。

もちろん、教科書にそのままの答えが書いてあるわけではありません。しかし、自分の経験や知識を整理し、それを強みに変える学びのプロセスは、変化の激しい時代において、特にファミリービジネスのように長期的な存続が求められる分野では極めて重要だと思います。こうした学びを通じて、自分たちの強みをどう伸ばし、方向転換が必要な場合にはどのように対応するかを考えることが、ビジネスの成功につながるのではないでしょうか。

ー 先生のご著書では、リスキリングと密接に関係するキーワードとして「アンラーン」が挙げられていますね。アンラーンという言葉については、「一度何かを捨てて新しいものを学び直す」という印象を持たれることが多いですが、先生のご著書を拝読するとそれは単なる「リセット」ではなく、もっと深い意味を持っていると感じます。この点について、先生のお考えをもう少し詳しくお聞きしてもよろしいでしょうか?

「アンラーン」は為末大さんとの共著ですが、僕と為末さんが特に強調したかったのは、「思考の癖」や「パターン化してしまった考え方」をもう一度解きほぐし、柔軟性を取り戻すことの重要性です。この柔軟性が、新しいインプットを取り入れる際にも非常に大切だと思います。

さらに、これまで積み上げてきた経験や知見を、新しい環境や状況で効果的に活かすためにも、過去の固定化された思考や行動のパターンを見直すことが必要です。その「変なパターン化」をやめることで、より適応力が高まり、学びを深めることができる、というのがアンラーンにおける大きな主張点です。

ー 先生のこれまでのご経歴を拝見すると、非常にユニークで、一般的な大学教授の経歴とは異なる足跡を歩んでこられたことが分かります。こうした経験を背景に、先生が独学に関するご著書を執筆されていることも、非常に説得力があります。独学の意義や、それをどのように成功につなげていくかについて、先生のご意見をぜひお聞かせください。

お話にありました通り、私の経歴は一般的なルートとはかなり異なり、中学卒業から大学院に至るまで約10年ほど、普通ではない道を歩んできました。この過程が、自分の思考の柔軟性を確保する上で結果的に役立ったのではないかと思っています。特にブラジルでは学校に全く通わず、完全に独学で学びました。

独学にはもちろん難しい面もありましたが、一方で大きなメリットも感じています。それは、自分のペースで勉強ができる点です。分からないところには時間をかけ、逆に分かるところは効率よく進めることができるという柔軟性は、独学ならではの利点だと思います。

私が学んでいた当時はインターネットもなく、情報源も限られていましたが、現在ではインターネットの発達やさまざまな学びのアプリが普及しており、環境は大きく変わりました。さらに、コロナ禍を経てオンラインでの学習機会が飛躍的に広がり、忙しい社会人でも空いた時間を活用して学ぶことが容易になりました。たとえば、5分間アプリで学んだり、1時間だけオンライン講座を受けたりといった形で、よりフレキシブルに学びを進めることができます。

独学は一人で孤独に勉強するというイメージを持たれることもありますが、実際には「自分のペースで、自分が学びたいことを自由に学んでいく」ことだと思います。現在のような学びの環境が整った時代では、独学のメリットを一層活かすことができるのではないでしょうか。

ー 「学校に行かないこと=悪いこと」と単純に捉えるのではなく、その選択がどのような形で学びにつながり、本人にとってどのような価値を生み出すかという観点で見ていくことが大切ということでしょうか。

学校に通うことのメリットは確かにありますし、一方で、通常とは異なる学び方を選ぶことにも独自のメリットがあると思います。これまでの学校教育では、ある程度仕方のない部分がありました。たとえば、朝学校に通い、決められた時間に座って授業を受け、1年間学んだら試験を受けるという形です。それは効率的に多くの生徒に教育を届けるための方法でした。

ただ、極端に言えば「サイズが1種類しかない洋服」をみんなが着なければならないような状況だったのかもしれません。でも、当然ながら体の大きさや好みは人それぞれ異なります。もしそれぞれの人に合ったサイズやデザインの洋服があれば、より快適で幸福な生活を送れるでしょう。それと同じように、教育や学び方も一律ではなく、それぞれの人に合った方法があった方が良いと思います。

特に今の時代では、学びの選択肢が多様化してきており、子どもにとっても、自分に合った形で学べる機会が増えることは非常に重要です。そして、大人にとっては、仕事や生活環境に合わせて多様な学び方を選べることが、ますます重要になってきています。この多様性が、学びを深める上での鍵になるのではないでしょうか。

ー 選択肢が広がった現在、教育や学びの柔軟性が増し、多様な方法で学べるようになりました。先生の著書「40歳からの会社に頼らない働き方」や「40歳定年制」などは、その考えを深める助けになるので、ぜひ手に取ってみてください。そして「法と企業行動の経済分析」は、第50回日経・経済図書文化賞を受賞した名著で、法と経済の視点から企業行動を分析した内容が非常に価値あるものです。事業承継の課題や改善策についても、先生のお考えをお聞かせいただけますか?

事業承継において、いろいろな課題や問題点がありますが、一番大きいと感じるのは、親子間でのコミュニケーションが十分に取られていない点です。本来であれば、現世代と次世代の経営者候補が腹を割って話し合うことで、「何を大事に思っているのか」「どうしていきたいのか」といった考えを共有できるはずです。もちろん、全てが一致するわけではないですが、合意点を見出したり、「この会社はこういうことを大切にしてきたんだ」と腑に落ちる部分も多いと思うんです。

ただ、親子間、とりわけ同性の親子、特に父親と息子のような関係では、普段から腹を割って話す機会が少ないことが多いですよね。そうなると、「ちゃんと伝わっているはずだ」とか、「言わなくても分かっているだろう」といった思い込みが生じてしまい、実際にはすれ違っているケースがよく見られます。これがもったいない部分だと感じています。

そこで、私たちが星野さんと取り組んでいる勉強会では、親子それぞれがサクセッションプラン(事業承継計画)を作成し、それをお互いに照らし合わせながら話し合う機会を設けています。ただし、親子だけで話し合うと衝突しやすいので、アカデミックな立場の人間や第三者が入ることで、スムーズに意見交換ができるようになるんです。「こんなことを考えているんだ」「こんなことを伝えたいんだ」というのを第三者を介して表現することで、うまく話がつながるケースが多いんですよね。

ー サクセッションプランというキーワードが出ましたが、改めて具体的にどういったプランなのか、ご説明いただいてもよろしいでしょうか。

事業承継については、企業やファミリーの成り立ちによって細かな計画を立てる場合もあれば、大まかなプランで進める場合もあります。ただし、どの形であっても、次世代に「何を期待するか」「何を大事にしてほしいか」「何を変えるべきか、あるいは変えないべきか」といった点を、できるだけ言語化して共有することが重要だと思います。

これも親子間のコミュニケーションの一環ですが、事業承継に伴い、会社やファミリーの理念をしっかりと言語化し、見える形にすることが、これからの時代では特に必要だと感じます。日本ではこれまで暗黙知による伝達が重視されてきましたが、今の時代では言葉にしなければ伝わりにくいことも多くあります。

また、ファミリービジネスはファミリーだけで成り立つものではなく、従業員や周囲のステークホルダーにとっても、その事業承継がどのように行われるのか、何を大事にして変わっていくのかが分からなければ、不安を抱くこともあるでしょう。そのため、しっかりと伝達することが大切です。

特に、伝統を大事にしている企業ほど「もっと変えていいよ」と次世代に積極的な変革を促しているケースが多く見られます。その際、コアとなる理念をしっかり持ちながらも、柔軟に変化を許容する企業が、結果的に持続的な発展を遂げているように思います。

ー 先生が最前線でご覧になっている中で、今のファミリービジネスの現状はどのように映っているのか、ぜひお聞かせいただければと思います。

現在の時代は、ファミリービジネスにとって多くのチャンスがあると考えています。星野さんも強調されていますが、ファミリービジネスという土台を活かして、新しい世代が新しいベンチャーを起こせる仕組みがあることは、大きな可能性だと思います。伝統を大切にしながらも、時代の変化に応じて新しい分野や産業へ進出することが、ファミリービジネスの大きな強みです。

その一方で、注目すべきは「ファミリーの側」の課題です。歴史ある企業ほど一族の人数が増え、ファミリーとしての決め事が増えていきます。例えば、介護の役割を誰が担うかといった、企業経営と直接関係のない課題も含まれるため、ファミリー内の議論が経営に影響を与えるケースも少なくありません。こうした状況では、ファミリーと企業の問題が混在し、トラブルが経営に波及することも起こり得ます。

そのため、ファミリーの課題と企業経営の課題を意識的に分けることが重要です。特にファミリー側では、ファミリーとしてのガバナンスや仕組みを整える必要があります。このようなファミリーとしての組織づくりやガバナンスを考えることが、今後さらに重要になると感じています。

ー ファミリービジネスが発展すれば、日本全体の活力を高め、さらなる成長が期待できると思います。先生の著作等もぜひお手にとってご覧ください。本日ありがとうございました!