Special Guest:NISHIDA YUSUKE
スペシャルゲスト:西田 雄介さま / 医療法人修志会グループ 理事長
埼玉県は人口が多いにもかかわらず、病院の数が非常に少ない地域です。東京の隣に位置していますが、意外と知られておらず、医療が不足しているエリアでもあります。
そうした背景から、ニーズがあると考え、この地域での医療活動に取り組むことを決めました。
私たちの理念は、「オーダーメイドの医療を届ける」ことですが、根本的な行動規範としては目の前で困っている人に手を差し伸べるというシンプルな思いで活動しています。
特に、医療サービスが届きにくい方々には、積極的に関心を持ち、事業を展開していきたいと考えています。
最初は、純粋に手術をしたいという思いと、スポーツが好きだったことから、自然と整形外科を選びました。
その後、手術を終えて退院した患者さんが自宅でどのように過ごしているのかに関心を持つようになりました。また、父が広島の田舎で内科医として応診や訪問診療を行っていたことも、無意識のうちに影響を受けていたと思います。
そうした背景から、次第に訪問診療に興味を持ち、この道を選びました。
外科医として働いていた頃は、組織の一員として日々の業務をこなすことが中心で、自分で選択する機会が限られていました。
しかし、バックパッカーとして世界を旅する中で、多くの人との出会いがありました。彼らは「明日はどこへ行こう」「来月は何をしよう」と、すべて自分で考え、行動していました。その姿を見て、「これこそが人間らしい生き方だ」と強く感じました。
この経験を通じて、私も自分の道は自分で決めて生きていきたいと思うようになりました。
人を大切にすることを何より重視しています。
それは、患者さんを一人の人間として尊重することはもちろん、スタッフに対しても同じです。スタッフも、自らの意思で当院を選んでくれた大切な存在なので、しっかりと大切にしていきたいと思っています。
印象的なエピソードはたくさんありますが、特に大変だったのはコロナ第7波の時ですね。
当時は、コロナ診察や職員の体調管理のマニュアルもなく、すべてを一から作りながら診察を続ける状況でした。埼玉県東部では、当院が最も多くコロナ患者の往診を行ったと言われています。
発熱患者が行政に連絡すると、行政から「まずこのクリニックに電話してください」と当院を案内される形で、毎日多くの患者さんの対応に追われ、本当に大変でした。
訪問診療はコロナの影響で都心部では少しずつ広まり、定着してきた印象があります。しかし、地方ではまだ十分に根付いていない部分も多く、私たちはそうした地域への展開を進めていきたいと考えています。
また、訪問診療は一つの医療機関だけではドクターの負担が大きくなりがちです。そのため、これから訪問診療を目指す若い先生方には、チームでの運営や他の医療機関との連携を意識することをおすすめします。それにより、より良い医療の提供が可能になると思います。
診療の収益に関しては、保険診療という限られた財源の中で成り立っているため、今後大きく収益が伸びていくかは疑問だと感じています。
しかし、その中でも質の高い医療を提供することがしっかり評価されていくことが重要だと考えています。
そうですね。一昨年から、まず法人本部の強化に取り組んでいます。
クリニック単位で法人本部をしっかり整え、管理部門ごとに責任者を配置する体制は、まだあまり一般的ではないと思います。そこで、あえて医療従事者以外の幅広い人材を集め、情報システム部、総務、広報などの専門職を配置し、法人本部が機能することで現場を支えています。
この体制を整えることで、現場の医療従事者が診療に専念できる環境を作ることを目指しており、この点が他とは異なる取り組みだと考えています。
人材確保については、試行錯誤しながら取り組んでいるところです。
まず、「一緒に働くことで学べること」「チームでの環境の魅力」 を伝え、入職のメリットを感じてもらうことを意識しています。
また、ドクターの採用については、信頼できる方からの紹介 を重視し、地道に人のつながりを広げる形で進めています。いわゆる 芋づる式 で、信用のおける方同士をつなげながら採用を行っています。
必要性は強く感じていますが、現状ではまだ具体的な動きはできていないのが正直なところです。
ただ、病院を見ても海外出身の看護師などが増えている印象があり、今後は私たちもそうした人材の受け入れについて少しずつ考えていく必要があると感じています。
現在、6つの成長戦略を掲げています。
一つ目は地方医療の活性化で、これは日本全体の大きな課題と捉えています。次に、大川さんの会社とも連携しながら精神科訪問診療や小児在宅医療を充実させることを考えています。また、訪問看護ステーションの強化も重要なテーマで、特に重症の患者さんを在宅で支えるためには、訪問看護の充実が欠かせません。
さらに、医療や介護の枠を超えた地域包括ケアシステムの構築を目指しています。これは単にクリニックや医療機関を整備するのではなく、町全体で高齢者や社会的弱者を支えていく仕組みを作るという考え方です。少し規模の大きな話にはなりますが、そうした地域づくりにも貢献していきたいと思っています。
また、医療DXの推進にも取り組んでおり、デジタル技術を活用して医療の効率化を進めています。最後に、今後の医療を支えるためには後継者問題の解決も重要です。事業承継に悩むクリニックをサポートし、医療サービスを継続できるような仕組みを作ることも考えています。
終末期医療については、確かに在宅でできる医療行為がこの10年で大幅に増え、相談が非常に多くなっています。また、以前は「病院で最期を迎えるのが当たり前」という考え方が主流でしたが、「住み慣れた自宅で最期を迎えたい」という患者さんの意識も大きく変わってきたと感じます。
そのため、依頼も増えており、私たちは適切な医療を提供するだけでなく、患者さんが後悔のない最期を迎えられるようなアドバイスをすることを大切にしています。スタッフにも、常にその意識を持って対応するよう伝えています。
街づくりの観点では、訪問診療の開業からスタートしましたが、困っている人に手を差し伸べるために、不足しているサービスを法人内でどんどん増やしていきたいという考えで取り組んでいます。
その一つが外来クリニックの設立です。もともと外来に通院していた患者さんが、スムーズに在宅医療へ移行できるような仕組みを整えています。
また、大川さんの会社と提携し、クリニックの隣にカフェを併設することで、医療をより身近に感じてもらえるような環境づくりにも取り組んでいます。さらに、お祭りに参加するなど、地域住民とのコミュニケーションを深める活動も積極的に行っています。
私自身はITが得意ではないので、社内の担当者と相談しながら進めていますが、訪問診療の観点ではより多くの患者さんを効率的に診るためのルート最適化技術が有益だと考えています。最近では、そうした技術を提供する企業も増えており、コラボレーションすることで互いにメリットがあるのではないかと思います。
また、医療機関自体がIT導入の遅れている分野だと感じています。そのため、社内の業務効率化を目的にアプリ導入なども試みていますが、技術が優れていても、使用者のITリテラシーによって浸透が難しいという課題もあります。
その点で、国が進めているリスキリング(学び直し)の取り組みは、今後の医療業界にとって非常に重要になると感じています。
そうですね。やはり「人を大切にすること」を大前提にしているのが大きいと思います。
核となるドクターやバックヤードのスタッフがいて、さらにその人たちが新たな人材を連れてきてくれる。そうした人のつながりを大事にする組織だからこそ、成長を続けられているのだと感じています。
今後も、その理念に共感してくれる人が増えれば、さらにできることが広がっていくのではないかと思っています。
病院で外科医をしていた頃は、なかなか実現できなかったかもしれませんが、在宅医療では一人ひとりの患者さんとしっかり向き合う時間を確保できることが大きな違いです。
患者さんが何を望み、何を望まないのかを丁寧に聞き取り、適切な医療知識のもとで、その希望に沿った治療やサービスを提供することを大切にしています。