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Radio Program

11th March 2025

Regional Deep Tech: The Next Frontier.

地方発ディープテックの挑戦
歯を削らない未来を創る「未来歯科医療」の世界とは

Special Guest:IHARA AKIRA

スペシャルゲスト:伊原 晃さま / 株式会社amidex 代表取締役 CEO


ー 本日は、未来歯科治療ということで、"歯を削らない治療"で世界に感動を与えているゲストをお招きしています。本日のゲストは、株式会社amidex 代表取締役CEOであられます、伊原晃さんです。徳島大学の歯学部から始まったベンチャー企業のスタートアップということで、多くの注目を集めているわけですが、ご出身は徳島でいらっしゃるんですよね?

はい、私も徳島出身で、東京に長くいますが、今でも徳島とのつながりは深いです。当社の介護法人も徳島に本社があるので、非常に縁を感じています。

ー 現在、160を超える歯科医院の皆様にご利用いただいているとのことですが、設立からまだ1年未満ということですよね。

はい。できるだけ多くの方に使っていただきたいと思っていますので、さらに拡大を目指しています。

ー 多くの虫歯治療では、本来削る必要のない健康な歯まで削ってしまうケースが少なくありません。結果として、その部分が再び虫歯になってしまうこともあります。なぜこのような「削らない歯科治療」が可能なのか、そのメカニズムについて教えていただけますでしょうか。また、サービスを開始されてからまだ1年も経たない中で、すでに多くの歯科医療関係者がこの技術を採用されています。その背景にある技術的な優位性や、この治療法の魅力についてもお話しいただければと思います。

まず、私たちの治療法は、虫歯を削らない治療ではなく、健康な歯を削らない治療を提供しています。従来の治療では、歯が抜けたり、折れたり、大きくすり減ったりする際に、大きな形態修正が必要となります。そのため、セラミック治療が一般的に行われますが、セラミックは固くて壊れやすいため、一定の厚みを確保する必要があります。そのため、健康な歯を削って、その形に合わせてセラミックを被せることが必要となります。

私たちの提案する技術は、健康な歯を削ることなく、そのまま残し、必要な部分だけを補う方法です。この技術では、コンポジットレジン(CR)という液体状のセラミックスを使用します。CRは練乳のような成状をしており、約80%がセラミックスの細かい粒子で構成されています。このCRを青色の光で固めることで、歯と同じ硬さになります。

CRは既に保険治療でも使用されており、最近ではその技術が向上し、物性が大幅に改善されました。従来は虫歯になって削った部分を埋めるために使われていましたが、現在では大きな形態修正にも使用できるほど物性が向上しています。

私たちの技術は、患者さんの歯の形を3Dスキャンし、そのデータをもとに修正する歯の形を設計します。その設計を基に、型枠インデックスを3Dプリンターで作成し、歯科医院に提供します。歯科医師がこの型枠を患者さんの歯にかぶせると、補うべき部分に隙間ができるので、そこにCRを注入し、光で固めます。この方法で、必要な部分だけを修復することができます。これにより、短時間で高精度な修復が可能となります。

この治療は、現在、国内ではほとんどが自由診療として提供されています。

ー アミデックスさんが徳島大学の歯学部から発信された技術という点でも、地域発のイノベーションとして非常に意義深いものがあります。こうした新しい技術がどのように受け入れられ、広がっていくのかが非常に興味深いところですね。

そうですね。現在、ごく一部の先進的な歯科医師は、コンポジットレジンの物性が向上したことを受けて、手作業で歯の形を作り直す技術を取り入れています。日本でおそらく500~1000人ほどの歯科医師が、患者さんができるだけ歯を削りたくないというニーズに応えようと、熱心に取り組んでいます。しかし、手作業で行う場合、時間がかかりすぎてしまいます。例えば、歯が抜けてブリッジを作る場合、手作業では2時間もかかることがあり、歯科医院の経営面でも回転率を上げる必要があるため、普及が難しいという課題もあります。

また、技術が未熟な歯科医師にとっては、納得できる結果を出すのが難しいという問題もあります。そのため、一般的な歯科医院では、歯が欠けたり失われたりした場合、セラミック治療が一般的に行われており、「歯を削ることが当たり前」とされているのが現状です。

実際、調査によると、日本人の9割以上ができるだけ歯を削りたくないと考えているという結果もあります。それにもかかわらず、健康な歯を削ることが多く、それが再度虫歯になる原因にもなっています。この問題に対して、細川先生と渡辺先生は強い課題意識を持ち、「削らない治療」を短時間で高品質に提供できる方法を模索し、その結果として技術開発と起業に至ったという背景があります。

ー 改めて伊原さんのお話を伺っていると、歯科や歯そのものについて非常に詳しい方だと思うのですが、大学院では宇宙工学を研究されていたんですよね。

そうですね。私のキャリアとしては、大学で航空宇宙工学を学んだ後、環境問題に関心があり、環境系のベンチャー企業に5年ほど在籍していました。その後、地域活性化や地元活性化に興味を持ち、ビジネスの力を身につけるためにデロイトトーマスというコンサルティング会社に就職しました。その後、5年間ほど必死に働き、地域経済の活性化を目的とした半官半民ファンドに転職しました。そこで福井県小浜市の観光活性化に関わったりしました。

その後、徳島でスタートアップの投資と経営支援を行っていたこともあります。私のバックグラウンドは主にコンサルタントとしての能力が中心ですが、コンサルタントは多くのプロジェクトに携わることが多いため、毎回業界知識や新しい知識を身につけなければなりません。私としては、そのキャッチアップする力を生かし、今までの専門性を活用して、世の中に価値を提供できるように努めています。

ー 伊原さんのこれまでの歩みや、徳島大学で生まれた技術との出会いが、まさに運命的なものだと感じます。技術が生まれ、それを実際に活かすために最適なタイミングで出会うということこそが、非常に重要なポイントだと思います。このようにしてしっかりとしたストーリーができあがっているわけですね。

私の思いとしては、各都道府県に必ず国立大学があり、そこには磨けば光る技術がたくさん眠っていると考えています。先ほどおっしゃったように、これらの技術をどう世の中の役に立て、それをマネタイズしていくのかが非常に重要です。もしそれが実現できれば、地方からイノベーションが起こり、各地が活気づいて、日本の地域活性化にも大きく貢献すると思っています。

私個人の考えとしては、自然に囲まれた地方でクリエイティブな仕事をすることが最高の環境だと思っています。こうした地方で、クリエイティブな仕事を増やし、地方から世界に通用するスタートアップがたくさん生まれるような未来はとても素敵だと考えています。

ー スタートアップ、ゼロからイチを生み出すのは非常に大変で、特に新規顧客の獲得や信頼を得るためのエビデンスが必要ですが、伊原社長の理念「世界に感動を」というメッセージに共感しています。新しいことを始めると批判や障害はつきものですが、御社の技術は素晴らしいものなので、全国に広めていくべきだと強く思います。

ありがとうございます。そう言っていただけて本当に嬉しいです。確かに大変なことが多いですね。これまでコンサルタントやファンド担当としても、やるべきことが山積みで、お金も足りない中で仕事を進めてきました。しかし、保坂先生と渡邉先生の強い思いに共感し、その思いを実現するために支援できることにやりがいを感じています。

彼らが掲げている「健康な歯を削らずに治療を提供する」というミッションに深く共感しています。歯を削らずに治療できることの重要性はもちろんですが、それ以上に、自分の歯で食事を楽しむことができることや、大切な人と話すときに口元を気にせず、思いっきり笑えることが大切だと感じています。そうした思いを込めて、私たちのミッションは「歯を削らない治療で世界に感動を届ける」ことです。

このミッションの中には、食事を自分の歯で楽しむことや、家族や大切な人との時間を豊かにすることが含まれています。私たちはその目標に向かって、保坂先生、渡邉先生、そして私たちの経営陣が一丸となり、確固たる方向性を持って進んでいます。このビジョンがぶれずに実現されていくことを確信しています。

ー 本当に多くの方々に利用していただくためには、現在160の施設にとどまらず、これからさらに拡大していく必要があります。全国各地でどのくらいこの技術やサービスを提供できるのか、具体的な数字としてどのような展開を目指しているのかをお聞かせいただけますか?

現在、国内では少なくとも1万の歯科医院に導入することを目指しています。また、国内だけでなく、並行して世界への展開も考えており、特にヨーロッパをターゲットにしています。まだサービスが立ち上がったばかりで、国内での安定化にも時間がかかりますが、同時にアメリカや東南アジアなどにも進出していく予定です。

ー アミデックスの代表取締役CEOとしてその役職を引き受けるという決断をされた瞬間があったかと思いますが、特に現在、ヨーロッパを中心に世界全体に向けて展開しているという状況で、こういった活動を進めていこうと思ったきっかけは何かあったのでしょうか。

まず、最も重要な点は、保坂先生と渡邉先生の技術が素晴らしく、そしてお二人の思いに深く共感したことです。それが私がCEOとしてこの役職を引き受ける大前提となります。お二人からCEOをお願いされた時、これは非常に光栄なことだと感じましたし、地元の徳島に戻って活動している中で、地域活性化の使命感を持っている私にとって、CEOとしてその活動を進めることは、もう二度とないチャンスだと思いました。

もちろん、当時は子どももまだ小さく、家も建てたばかりという状況でしたが、人生は一度きりですし、妻からも応援をもらい、「やらない手はない」と決断しました。正直、私自身は歯科医師としての専門性を持っていないし、コンサルタントとしての経験があるとはいえ、スタートアップの社長として必要なスキルや人脈は足りていないと思います。しかし、いろんなご縁を大切にしながら、自分自身が努力を重ねることで、私たちがやっていることが共感を得て、必ず支えてくれる方々が現れると信じて、最終的に決断しました。結果として、エイヤーと飛び込んだ感じです。

ー デジタル技術の進展と、御社が提供するサービスにおいても、テクノロジーの進化が重要な役割を果たしています。これからも新しい技術が登場し、御社の活躍によって、さらに進化を促進するような技術が生まれると思います。これからどんな技術が登場し、どんなことが可能になるのか、ぜひお話を伺えればと思います。

ビジネスとしてどのように進めていくか、また技術面で何をさらに磨いていくかという話は、経営陣や投資家と常に議論しています。その中で一つの重要なテーマとして、私たちのコア技術である歯の設計技術があります。これを型枠インデックスという形で落とし込む技術が必要で、さらにこのプロセスをAIを使って自動設計ソフトに落とし込みたいと考えています。

このようなソフトウェアを歯科医院に導入していただければ、3Dプリンターを使って、私たちに発注せずとも即日治療が可能になると予測しています。例えば、午前中に患者さんが来て、口腔内スキャナーで口の形を取った後、そのデータをソフトウェアにかけ、3Dプリンターで加工。夕方には治療を完了させることができるのです。

このように、患者さんが何度も通院しなくても済み、時間の無駄を省けるとともに、デジタル技術を駆使することで効率的な治療が可能になります。さらに、この技術があれば、3Dプリンターさえあれば、世界中どこでも治療ができるようになり、もしかしたら宇宙でも使えるかもしれない、というような広がりを見せる可能性があると考えています。

ー まだまだアミデックスさんの進化は続いているということですね。これから新しい情報に触れる機会が増えていくと思います。その時には、現在の160という数字がきっと1万に近づいていくことでしょう。そうしたタイミングで、また新たな技術に触れることができることを楽しみにしています。本日はありがとうございました!